
闇に咲く花~王を愛した少年~
第3章 陰謀
柳内官が内侍試験に合格し、小宦となって宮殿に入ったのは十歳のときのことになる。
その四年後、先王が急死し、その弟である光宗が急遽、十四歳の若さで即位した。二人は全くの同年なのだ。その頃から、柳内官はいつも光宗の傍に控えていた。光宗自身が何より不正を嫌う性格だったため、実直すぎるほど実直な柳内官とは響き合うものがあったのだろう。
「畏れ多いお言葉にございます」
柳内官が頭を下げると、光宗は珍しく疲れた表情で玉座にもたれた。数時間に渡って大臣たちと御前会議をした後でさえ、いささかの疲れも見せぬ王には滅多とないことだ。片手で額を押さえ、もう一方の手で出てゆくように合図する。
「予は大切な女も友も失いたくない。ゆえに、この件は不問に付すゆえ、そなたは、このことに関してこれ以上詮索はせぬように」
「ですが、殿下、このままでは殿下の御身が危険すぎます」
なおも言おうとする柳内官に、光宗は声を荒げた。
「くどい! 仮に緑花に何らかの野心があるのだしても、おかしいではないか。予を殺そうと思えば、緑花には、とうにそれができていたはずなのに、何故、今になって毒殺など企てる必要がある? 二人きりになる機会は毎夜、あるのだ。夜に二人だけで忍び逢っているときに、何故、直接手を下そうとしなかった? あれは、そのような大それたことのできる女ではない。何より心根の優しい娘なのだ。予が緑花を寵愛するのも、その美しい容貌だけではない、あの女の心の美しさ、優しさゆえなのだ」
「それは―」
柳内官は言葉に窮した。確かに、理屈でいえば、それはそうだろう。光宗の寵愛を受けるようになって二ヵ月もの間、あの女には幾らでも暗殺の機会はあったはずなのだ。が、二ヵ月という月日が、彼女に夢中になっている国王を更に籠絡するために必要な期間だったとしたら?
張緑花がそこまで見越して、わざと好機を待っていたのだしたら? 彼女を熱愛し、心から信じ切っている国王がよもや彼女の仕業だと思わないように、要らざる疑念を持たれないように、これまで待っていた―、とも考えられないだろうか。
今、光宗に何を言ったとしても、無駄だろう。若い王の瞳には張緑花しか映ってはいない。
その四年後、先王が急死し、その弟である光宗が急遽、十四歳の若さで即位した。二人は全くの同年なのだ。その頃から、柳内官はいつも光宗の傍に控えていた。光宗自身が何より不正を嫌う性格だったため、実直すぎるほど実直な柳内官とは響き合うものがあったのだろう。
「畏れ多いお言葉にございます」
柳内官が頭を下げると、光宗は珍しく疲れた表情で玉座にもたれた。数時間に渡って大臣たちと御前会議をした後でさえ、いささかの疲れも見せぬ王には滅多とないことだ。片手で額を押さえ、もう一方の手で出てゆくように合図する。
「予は大切な女も友も失いたくない。ゆえに、この件は不問に付すゆえ、そなたは、このことに関してこれ以上詮索はせぬように」
「ですが、殿下、このままでは殿下の御身が危険すぎます」
なおも言おうとする柳内官に、光宗は声を荒げた。
「くどい! 仮に緑花に何らかの野心があるのだしても、おかしいではないか。予を殺そうと思えば、緑花には、とうにそれができていたはずなのに、何故、今になって毒殺など企てる必要がある? 二人きりになる機会は毎夜、あるのだ。夜に二人だけで忍び逢っているときに、何故、直接手を下そうとしなかった? あれは、そのような大それたことのできる女ではない。何より心根の優しい娘なのだ。予が緑花を寵愛するのも、その美しい容貌だけではない、あの女の心の美しさ、優しさゆえなのだ」
「それは―」
柳内官は言葉に窮した。確かに、理屈でいえば、それはそうだろう。光宗の寵愛を受けるようになって二ヵ月もの間、あの女には幾らでも暗殺の機会はあったはずなのだ。が、二ヵ月という月日が、彼女に夢中になっている国王を更に籠絡するために必要な期間だったとしたら?
張緑花がそこまで見越して、わざと好機を待っていたのだしたら? 彼女を熱愛し、心から信じ切っている国王がよもや彼女の仕業だと思わないように、要らざる疑念を持たれないように、これまで待っていた―、とも考えられないだろうか。
今、光宗に何を言ったとしても、無駄だろう。若い王の瞳には張緑花しか映ってはいない。
