
土壇場の恋・あなたならどうする?
第1章 主な登場人物
『坊っちゃん、どちらにおいでです……』
それは、囁くというほど高くもない。
しかもどこから聞こえてくるのか分からない声。
少年が育った一族が使う意思伝達法のひとつ・
遠話(おんわ)だ。
ハッとして少年はその声へ意識を集中させ、
同じように遠話で答える。
『志乃か? おれは大丈 ―― う”っ』
『坊っちゃん?!』
少年は前屈みに倒れ込んだ。
その少年の後方に狐面をした長身の人物が
立ち込めた濃霧と共に突如現れる。
『やっと見つけた……もう、逃さぬ』
「き ―― 貴様は……っ」
『命惜しくば、我と共に来るのじゃ』
狐面の人物が少年に手を伸ばす。
「汚らわしいっ。俺に触るなっ!!」
しかし、少年がその手を跳ね除けたと同時に
すざまじい雷が轟き、稲光が狐面の人物を
直撃して、
「ぎ、ぎゃぁぁぁ――――っっ!!」
辺り一面が眩いばかりの閃光に包まれた
『坊っちゃん? 如何がなされました?!
まもるさまーーっ!』
その姿なき思念の声が響き渡って ――
今あった事が嘘のよう、
辺りが静寂を取り戻した時、
あの少年の姿も、
狐面の人物も消えてなくなっていた。
