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take a breather

第6章 season

学校に着くと午後だからかどこの部活もやっていなかった

桜の木の下にひとりぽつんと佇む智

俺はイチゴ・オ・レを購入し、桜の木へと歩いて行った

「はい」

智にイチゴ・オ・レを渡す

「お、サンキュ」

智は受け取るとポケットに手を突っ込んだ

「それ、奢りね」

「イヤ、今日は払うよ」

智が握った手を俺に差し出した

「え、いいよ。勝手に買って来ちゃったんだし」

「いいから」

手を伸ばしたまま引っ込めない

仕方なく手のひらを上に向けると
その上に智が握った手を乗せた

智の手が開き『ポトン』と手のひらに何かが落ちた

智の手が退くとそこにあったのは硬貨ではなかった

「これ…」

手のひらに桜の花を模ったピンバッチがひとつ

「入学祝い
スーツ着る時に付けて」

「可愛いね…どこで見つけたのこれ」

「作った」

「え?智が?」

「ん…」

「ありがと…
ごめん、俺、餞別何も用意してない」

「これくれたじゃん」

智がイチゴ・オ・レを顔の横に持ち上げた

「そんなの飲んだら終わりじゃん」

「じゃあ飲まないで取っとく」

「それはやめて…」

「ははっ、だよな」

「うん…」

ふたりの間に無言の時間が流れる

「…それ、付けていい?」

智がピンバッチを指差した

「え、今?」

「うん、今…」

「いいけど…」

智が手のひらに乗ったピンバッチを摘んだ

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