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Memory of Night

第14章 聖夜


「ほら」

「ほらって……」


 左腕を差し出されて、宵が呆れた顔をする。

 薄暗い部屋の中、瞳を凝らして晃の腕を見るけれど、確かに腫れてはいないようだった。

 晃は自由になった肩と手首をゆっくりと数回まわした。

 そんな様子にも、宵は目をみはるしかない。


「おまえ人間じゃないだろ?」


 不良達との事件があってから、まだ1ヶ月ちょっとしか経っていない。

 医学的な知識なんて宵にはないけれど、骨折ってそんなに早く治ってしまうものなのかと思う。

 宵の場合は足にひびが入っただけだったが、完治したのはほんの一週間前だ。


「まだ完全には治ってないけど」

「だったら今日は……」

「――宵を抱きたい」


 たった一言だった。

 ぽつっと洩らされたその言葉に、宵は押し黙る。酷く胸が痛かった。

 心の内側から、何か得体の知れないもので押し広げられるような不思議な感覚。

 晃の手が、再び宵の頬を包む。ゆっくりと引き寄せられ、キスされるのだとわかっても、拒む気にはなれなかった。

 自分もきっと欲しかったから。

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