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本気になんかならない

第5章 レスポワール

するとそこへ、後ろの男が話しかけてきた。

「宮石。最近、変わったな」

「また背が伸びたかな?」

「いや、感じがよくなった。女子もそう言ってる」と親指を立てる。

そう言われてもピンとこない俺に、彼は説明を加えた。

「前は、誰かが困っていても気に止めずにほかのヤツらに任せてた。間違っても自分からすすんで落とし物を届けるような男じゃなかった。今朝も、電車内で人に席を譲ってたろ?」

「…それ、俺じゃない」

「恥ずかしがるなよ。おもしろいヤツ」

ニコニコと彼は笑ったけど、俺はどう返していいのかわからずに。
だってこの、むず痒さが苦手なんだ。

ちょうど本鈴が鳴ったのもあって、そのまま自分の席に着いた。

そして先ほどの会話をぼんやりと反芻する。
以前の俺は、感じが悪かった?
頼まれたことは拒否せずにやってたし、そーんなことないと思うけどな。

車内席だって以前から譲ってた。
"どうぞ"とか言わずに、無言で立ち退いたってのが的確な表現かもだけど、譲ったことには違いない。

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