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ほんとのうた(仮題)

第12章 城崎家の人々


 顔を真っ赤にして、怒りも顕に――

『そら、見たことか』

 と、そんな言葉が鳴った気がした。或いは、見下げ果てた、とばかりに――

『俺に逆らうからだ』

 ――とも。または、冷笑を浮べ――

『言うことを、素直に聞いておればな』

 ――とも。

 それらは俺の脳裏が勝手に思い浮かべた情景。畏怖する心が抱いた、イメージの形である。実際にはまだ、親父はなに一つの言葉を発してはいない。

「……」

 腕組みをしたみまま黙って佇む親父の反応は、その腹にどの様な想いが隠されているものなのか、俺にはよくわからなかった。

 只――

 ん……?

 そこはかとない違和感は、漂っている。どうしてそう感じたものか、それすらもわからないが……。

 俺と親父は無言のまま、暫し互いの顔を見やっていた。

 そうした中で、先の俺の取り留めもない告白を受け、頻りにざわつき始めていたのは、取り巻く周囲の者たちであった。

「フン――ろくな話ではないと思っていたが、まさか、そこまでとはな。拓実、だから俺が言っただろう。こうして集まった、その甲斐はあったようだ」

 まずは揮市兄が、その鼻息も荒く――。

「てっきり、金でもせびりに来たのだろう、そう思っていたが。どうやらコイツの魂胆は、それだけではなかろう」

 それを受け、拓実は――

「無職って……本当に? 一体また、どうしたの」

 あーあ、とばかりに、手を額に当て天井を仰いだ。

「こうなれば理由など、どうでもいい。話の向きは、もう知れているのだからな。金か仕事、或いはその両方――今更になって臆面も見せず、この男は親父に泣きつこうというつもりだ」

「裕司兄さん、そういう話なら事前に言っておいてくれないかなぁ。そりゃ、関連工場でいいのなら、仕事の世話くらいできないこともないけど……」

 兄と弟が至極勝手に進めゆく話を、俺は何気に聞き流している。大変な誤解ではあるが、今はそれを訂正するのも面倒だった。

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