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夏夜の煙

第1章 1人で吸うか、2人で吸うか


S side



「櫻井先生。次のクラスの堀和奏なんですが、この間岬の近くでの事故で、ご両親が亡くなって、傷心しているそうです。」



新任校で、同じ学年をもつ先生に教えて貰った『堀和奏』という女のコ。



「ありがとうございます。」



そう誠実そうに微笑みつつ同僚にお礼を言いつつも。



内心そんな子をわざわざ俺に押し付けるなよ、だりぃな。



と思ってしまった。



とにかくどんなやつか見よう。



そう思って入学時の資料を漁る。



「ほり、わかな…ほり、ほり……あった。」



資料の中には、さらさらの黒髪の下から意志の強そうな瞳を覗かせる少女がそこにいた。



きゅ、と結ばれた薄い唇。



白く透き通る肌は、頬だけサクラ色に染まっている。



その儚い美しさに、少し惹かれる自分がいた。



どんな少女だろうか。



モノクロのこの高校にほんの少し加わった彩り。



そこから始業式の日々は地獄のように忙しかったけれど、堀和奏に会うのを楽しみに、キラキラスマイルを振りまき続けた。



そして始業式の日。



自分のクラスの生徒を見渡すと、堀和奏はいなかった。



彼女と仲が良いという松本潤に聞くと、学校に行く気はないと言っているらしく。



「じゃあしょーがねぇよなぁ……」



本人が来たくないと言っているのを、強制するのは俺のポリシーに反する。



というか何よりめんどくさい。



体育祭だのなんだのと行事やテストが重なって、オマケに教頭にいじめられたりして。



俺は、いつの間にか堀和奏という少女のことは忘れていた。



でも、一昨日の職員会議。



『堀和奏』を進級できないと、減給だ!!と教頭に宣言されて、また彼女を思い出した。



いつもの俺なら、きっと校長だとかに良いようにごまをスってどうにかしてもらったんだろうけど。



『堀和奏』に、会ってみたくて。



その勝負?を正々堂々受けて立ってやった。

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