
氷華~恋は駆け落ちから始まって~
第2章 氷の花
確かにその喩えがふさわしい眺めだ。一つ一つの枯れ跡が雪をうっすらと戴いた様は、こんもり盛り上がり、あたかも花が咲いているように見える。そんな氷の花が無限にひろがっているのは現(うつつ)とは思えない。まさに夢幻の世界そのものだ。
「見たところ、何かの花が咲いた跡のようなね。何の花なのかしら」
訊くとはなしに訊いただけなのに、トンジュからはすぐに応(いら)えがあった。
「蓮の花ですよ」
「蓮の花」
「そう、蓮が咲いた後の枯れ野に雪が降り積もって、このような素晴らしい氷の花畑が出現するのです」
どこか自慢げな口調で言い、トンジュはサヨンを見た。
「この風景をあなたに見せたかった」
「綺麗だわ」
サヨンはつい感嘆の声を洩らしていた。
いや、この群れ咲く氷の花を見ていると、思わずにはいられない。自分たち人間は、どれほど小さな存在なのだろう、と。
人間は考え、物を作り、様々な工夫を凝らし文明を作り上げてきたが、実のところ、大自然の前では、ただの無力な存在でしかない。
苦労して築き上げた文化も日々の営みですら、天の起こす自然の災害の前では一瞬にしてかき消され、飲み込まれてしまう。
人間の手にかかれば、眼を瞠る繊細な細工の工芸品ができあがるけれど、自然が作り上げるこの氷の花の前では、その美しさも色褪せてしまうに違いない。
幼い頃、父はサヨンをよく膝の上に乗せて言い聞かせたものだ。
―人間は誰でも何かをなすためにこの世に生まれてくるものなんだよ。この世に生を受けたからには、必ず、その者に課せられた役割がある。人生は、まず最初に、その使命を見つけることから始めなければならないんだ。
当時、サヨンはまだ幼すぎて、父の台詞の半分も理解はできなかった。成長してからも色々と考えてみたが、結局、明確な応えを見つけられないままだった。
親の言うなりに決められた相手に嫁ぎ、嫁しては良人の言いつけに従うしかない―、それが当時の女の一般的な生き方だった。まだしも庶民の方がそういう意味では自由があったといえるかもしれない。
「見たところ、何かの花が咲いた跡のようなね。何の花なのかしら」
訊くとはなしに訊いただけなのに、トンジュからはすぐに応(いら)えがあった。
「蓮の花ですよ」
「蓮の花」
「そう、蓮が咲いた後の枯れ野に雪が降り積もって、このような素晴らしい氷の花畑が出現するのです」
どこか自慢げな口調で言い、トンジュはサヨンを見た。
「この風景をあなたに見せたかった」
「綺麗だわ」
サヨンはつい感嘆の声を洩らしていた。
いや、この群れ咲く氷の花を見ていると、思わずにはいられない。自分たち人間は、どれほど小さな存在なのだろう、と。
人間は考え、物を作り、様々な工夫を凝らし文明を作り上げてきたが、実のところ、大自然の前では、ただの無力な存在でしかない。
苦労して築き上げた文化も日々の営みですら、天の起こす自然の災害の前では一瞬にしてかき消され、飲み込まれてしまう。
人間の手にかかれば、眼を瞠る繊細な細工の工芸品ができあがるけれど、自然が作り上げるこの氷の花の前では、その美しさも色褪せてしまうに違いない。
幼い頃、父はサヨンをよく膝の上に乗せて言い聞かせたものだ。
―人間は誰でも何かをなすためにこの世に生まれてくるものなんだよ。この世に生を受けたからには、必ず、その者に課せられた役割がある。人生は、まず最初に、その使命を見つけることから始めなければならないんだ。
当時、サヨンはまだ幼すぎて、父の台詞の半分も理解はできなかった。成長してからも色々と考えてみたが、結局、明確な応えを見つけられないままだった。
親の言うなりに決められた相手に嫁ぎ、嫁しては良人の言いつけに従うしかない―、それが当時の女の一般的な生き方だった。まだしも庶民の方がそういう意味では自由があったといえるかもしれない。
