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妖魔の憂鬱

第2章 人成らざる者

スーッと風が走り、庭草を揺らして2つの影が浮かび上がった。

壱星(いっせい)の隣に立つ優月(さつき)が呟いた。
「ここは?」

芝生が敷かれ、花壇には季節の草花が綺麗に顔を並べる広い庭。門からは玉砂利の中の飛び石を進み、その奥には歴史を感じる木造二階建ての日本家屋が建っている。

「あたしをここに連れて来て、どうするつもり?」
本当は、興味も無いし聞きたくもないと言わんばかりの優月。

目の前の日本家屋を指差した壱星。
「その家には、一組の夫婦とその母親が住んで居ます。その女…嫁を孕ませたいと思っています・・・」

結婚しても、何が悪いと理由が有る訳では無く、中々子供が授からない女。そのせいで女は、姑や近所の噂好き達と馴染めないでいる。壱星は、自分に出来る事でなんとか成るのであれば精一杯…肩身の狭い思いをしているこの女を救いたいと思っていた。

しかし同時に、妹の様に可愛い優月を犠牲にする事に心を痛めていた。

「っ!
そんなこったろぅとは思ったけど」

インキュパスである壱星には、繁殖能力は無い。サキュパスである優月が、腹に精子を持ち壱星と一体化してやっと、その能力を持つと言われている。

「んで
誰の子を孕ますの?」

イラ立った態度を隠そうとせず、優月は壱星に問いかけた。


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