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and you

第2章 not yet  S×O





S side



俺は、絶対に忘れてはいけない何かを
酒に溺れて忘れてしまっている。

それは分かっているのに、
それしか分からなくて。


智くんに部屋を追い出されてから、
またインターフォンを押そうかと迷った。

ここは、もう一度智くんの顔を見て
謝るべきじゃないかと。


でも、何も覚えていないのに
何を謝るっていうんだ。

智くんをもっと傷つけるだけじゃないか。

そんないいわけをして、
急ぎ足で家に帰った。




それから数日たっても、俺は何も思い出せない。

智くんとの距離は前よりも
ずっとずっと遠くなった。

智くんは、「いつも通り」を装っていた。
無理矢理な笑顔を張り付けて、
俺に泣きそうな笑顔を向けていた。


それが今日は違った。

ごく自然に、他のメンバーと同じように
挨拶され、笑顔を向けられ、スキンシップも
してくるようになってしまった。

智くんは、俺のことなんて
好きじゃなくなってしまったんだろう。




…ん?

智くんは俺のことを好きじゃなくなって…。


「何で前は好きだったみたいな言い方
 してんだよ、俺…。」


『好きだよ。翔くん。』


空想でも妄想でもない。
確かに俺は、智くんからその言葉を
聞いたんだ。


酔っていたあの日に。

ひとつ思い出せば、あっという間に
欠けていた記憶は埋まっていく。


全てを思い出すと同時に、
俺は智くんの家に向かって飛び出した。



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