テキストサイズ

愛すると言う事…

第7章 episode 7




ふわふわと揺られて、目を覚ました。



見慣れた部屋で、翔さんが目の前に居る。


冷たい海に足を踏み入れたはずだった。

なのに何故か、いつもの寝室で翔さんが居て。

智「……何で、俺……」

翔「もういい。もう終わったんだ。…大丈夫、全部終わった」

抱き締められた翔さんの腕の中は、懐かしくて…温かい。
もう傍には居られないと、出て行ったのに…

『思い出したのか?』と言った翔さんの言葉が、どう言う事なのかは分かんないけど。
泣いてたのは俺のはずだったのに、翔さんは俺を抱き締めながら泣いていた。

智「……ごめん…」

翔「いい。…帰って来たんだ、俺の所に……生きて帰って来たから…」

やっぱり、俺は死に掛けたのか…

たくさんの夢を見てた。
あれは、全部が全部夢だった訳じゃなかった。

病室に居る夢ばかり見た。
翔さんがずっと傍に居た気がする。
多分、それが夢じゃなく現実だった。

智「………ずっと、傍に…?」

翔「あぁ、お前が死に掛けた時からずっと居たよ。…馬鹿な事しやがって」

智「……夢、見た。………父ちゃんと母ちゃんの…」

翔「…そうか」

智「………本当…ごめん………俺、金…」

翔「大丈夫だ。…全部じゃねぇけど、取り返したから」

ニヤリと笑った。

初めて見るその表情に、背筋がゾッとする。
詳しくは聞かない方が良さそうだ。


それから翔さんに入院中の話を事細かにゆっくり丁寧に教えられた。

看護師に逆ナンされた事まで教えられて、ちょっとムカついたら、頭を撫でられて。
すぐにまた真剣な顔して話を続ける。

翔「もしかしたら、運動神経の方にマヒが出る可能性があるらしい。…出たとしても僅かな軽いマヒだと思うって医者は言ってた」

智「………マヒ…」

翔「まぁ、あくまで可能性の話だ。何かあればすぐに言えよ?」

智「……ん……でもこれ以上は迷惑…」

翔「だから。…迷惑じゃねぇっつってんだろ。怒らせたいのか」

既に、怒ってる…
急に低くなった声は、今まで聞いた事もない怒りの声音で。

それほど、俺はこの人を振り回したのかと改めて申し訳なくなった。
『…ごめん』と呟いた俺に、また抱き締めた翔さんが『もう頼むから居なくなるな』と、小さな震える声でそう言った。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ