
愛すると言う事…
第3章 episode 3
智「……それから、俺は1年間くらい記憶が無い」
智はそう言って、静かに涙を流した。
やっぱり、こいつは背負い込んでた。
しかもこんなに重く辛い過去を。
ただ、智が何故自分を"人殺しだ"と思ってるのか。
智は"親を殺した"と言ったけど、どう考えてもそれは違うんじゃねぇかと思う。
父親は、息子に責められ続けただけで命を絶つだろうか。
母親は?
男に連れ去られたんだ、幼い智にどうする事も出来ないのは当然だろ。
翔「お前が殺したんじゃない。…お前は"人殺し"じゃねぇよ」
静かに涙を流す智の手をそっと握った。
動かず表情を変えない智は、これまでと同じく淡々と言葉を吐き出す。
智「……俺だ。…母ちゃんを守れなかったのも、父ちゃんを責め続けて死なせたのも……俺なんだ。………俺が、殺した」
まるで呪文の様に繰り返す。
いくら俺が違うと言い聞かせても、智はどこを見る訳でもなく遠くを見つめたまま繰り返した。
智「…ばあちゃんの"どんなんでもいい。しっかり生きろ"って言葉は、そう言う事だ。…"生きて苦しめ。そして償え"……ばあちゃんは、そう言ってる」
翔「そんな訳ないだろ。こんなちゃんと育ててくれたおばあさんが、そんな訳ねぇよ」
智「……もう、いい。…大丈夫だから。一人で生きてくのには慣れてる。明日にでも、出てくから」
翔「な、に?…何でそうなる」
智「…翔さんは、こんな"人殺し"と一緒に居ちゃ駄目だろ。周りにバレる前に、居なくなるから…翔さんに迷惑は掛けない」
翔「………お前。…馬鹿だろ」
本気でムカついた。
だから予想以上に低い声が出て、そこで初めて智が俺を見た。
翔「お前を手離すつもりはサラサラねぇよ。…お前が嫌だって言おうが、縛り付けても監禁してもな。覚えておけ。…俺は、お前を"人殺し"だとは思ってない。いや……例えマジで"人殺し"だったとしても、手離すつもりはない」
智「……馬鹿、じゃねぇ?俺の事なんか…「馬鹿だよ。だけど、何て言おうと……智が好きなのには変わりないし、これからも変わらないんだ」」
今は、いい。
そうやって、全てを話してくれただけで十分だ。
間違いなく、お前の"人殺し"って呪縛は思い込みで…
誰かに植え付けられたんだろう。
