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僕ら× 1st.

第9章 トリオ --Shu,Ior

花水木も咲き終わった5月下旬。
そろそろ紫陽花の季節。

次第に日が長くなってきているとはいえ、太陽が沈むと当たり前に外も暗くなってくる。
時計を見なくても、夜が迫ってきていると容易に判断できる時間だ。

「宮石って、よく無事で生きてるよな」

顧問が「はぁ」と感心して花野に目をやる。

「そっか、2時間遅れてるのか…ん、覚えとく」

ダウトっ!竜頭を回してくれ…。

「いや。見せて?直してあげるから」

花野の手首をとり、狂った時計を確認する。
ったく、いつからこんなにズレてるんだ?
普通は10分も遅れてたら気づくだろ?

「自分でできるよ」

「子どもじゃないもん」と手を引っ込めようとするけどさ。

「花野がやるとまたおかしくなるだろ?ほら、貸して」

強引に奪って針を合わせる。

「お前、世話焼きだな」と顧問が言う。

こんなところでも僕の存在価値をアピールしてるんだよ。
"私には伊織君がいなきゃ"って、思わせたいんだ。
そして、いつでも花野に触りたい…。

「花野は何のために時計をしてるの?スマホでいいじゃない」

「え?お兄ちゃんに貰ったから」

帆澄兄、花野に与えるなら電波時計だよ…。

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