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僕ら× 1st.

第5章 伊織の婚約者 --Shu

「女のコたちがなぜ泣いたかわかったか?」

「そっか……。俺も花野ちゃんにプイってされたら、泣く。覚えられてないだけでも辛いのに」

「お前が泣くの?見てみてぇ」

幼児の頃から一緒にいるけど、こいつの涙は見たことねぇなぁ。
たび重なる親父の浮気に愛想つかした母親が出ていったときも、我関せずって表情してたもんなぁ。

喜怒楽は激しいのに。
俺の悲しみには無言でつきあってくれる優しさは持ちあわせているのにな。

「誰がてめぇの前で泣くかよ」

「じゃ、あの少年の気持ちもわかったか?」

「あの?マスター・ヨーダか……」

瞳をくるっと半周まわして目を細める。
あいつが、なぜ人を避けて階段をおりたのか、ゆっくり考えろ。

それにしても、あのフラレ少年が言っていた"あいつ"の正体。
"あいつよりいい男になるから、あとで後悔するよ?"
……伊織よりってか?
冗談、俺らの弟は、お前には抜かれねぇよ。
ま、精一杯の強がりだろうけどさ。

ここにいる兄だって、斜にかまえたあいつには敵わない……。

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