幸せの欠片
第5章 衝動
『…和也!』
スマホの向こうで声を荒げられ、一瞬肩が竦む
そして、そんな様子に気付いた相葉さんが窺うような視線を向けるから
「とにかく。…何回掛けて来ても変わりませんから」
冷静さを懸命に取り繕って、静かに返した
こうして電話が来る度に
聞かされる度に
忘れたいと願う気持ちを嫌でも思い出してしまうなんて
きっとこの人には分からない
『もう、手配は出来てるんだぞ』
「俺は頼んでません」
『……また掛ける』
それだけ告げると、唐突に通話が切断された
恐らくこれ以上は話しても平行線だと察したのだろう
だけど通話が切れたからと言って、俺の気分が戻る訳じゃない
はっきり言って、喚き出したいような
最低な気分に陥っていた
「かず、…今日は止めとく?」
相葉さんが、静かに俺の背中を擦った
きっと相葉さんは、約束通り話を「聞いてない」
だから何も聞かない
だけど
もう、俺の方が無理だった
作品トップ
目次
作者トップ
レビューを見る
ファンになる
本棚へ入れる
拍手する
友達に教える