
オオカミは淫らな仔羊に欲情す
第3章 導入部・その①
歩を進めようとした絢音を裕が引き寄せ、
抱きしめたのだ。
突然の事で絢音はとっさに腕を思い切り突っ張らして
裕と体をなるべく離した。
「ごめん、しばらくこうしててくれ」
「誰か来ちゃうよ」
「それでもいい」
「……どうしたの? 何か、変だよ、裕」
「……」
裕の表情は、言いたい何かがあっても言い出せない
といった感じで、辛そうに歪む。
「……ゆたか?」
そんな辛さは語らずとも、肌の触れ合いや
ちょっとした仕草からも十分感じ取れるもので。
ましてや、兄の隆にカテキョをしてもらう以前から
家族ぐるみの付き合いをしてきたから、
裕が重大な何かを胸中に沈めかけていると
分かった。
「……話して? 私は何を聞いても驚かない」
「……本当に?」
「うん」
「……実は、俺、ゲイ、なんだ」
「えっ ―― (絶句)」
その絢音の表情を見て、裕は堪らず吹き出した。
「プッ ―― もしかして、真に受けた?」
「あー、もうっ! 人が真剣に話してた時にっ」
「―― 出発、週明けになった」
「……??」
「……母さんがさ、ちょうど向こうの学校は
9月が新学期だからいいタイミングだろうって」
「……そう」
「って ―― たったそれだけ?」
「じゃあ、大泣きして”行かないで”って縋れとでも?
……うちら、まだ、親の保護が必要な学生なんだから
しょうがないじゃん。泣いたからって……」
言っているうちに感情が昂ぶってきた絢音の瞳から
大粒の涙がポロポロ溢れる ――。
「泣いてどうにかなるもんならいくらでも泣くよ。
私だって裕と別れるの寂しいもん」
その言葉を受けた裕は、何を考えたのか?
絢音の手をしっかり握り締めたまま歩き出して、
自宅のすぐ先にある角を曲がり国道の方へと
歩みを進める。
「ゆ、ゆた ―― どこ、行くの?」
「ホテル。絢とヤりたくなった」
絢音は再び絶句した。
それから数分後 ―― 裕が目指した場所は本当に
ラブホだった。
しかし、玄関に入る直前で絢音が踏みとどまった。
抱きしめたのだ。
突然の事で絢音はとっさに腕を思い切り突っ張らして
裕と体をなるべく離した。
「ごめん、しばらくこうしててくれ」
「誰か来ちゃうよ」
「それでもいい」
「……どうしたの? 何か、変だよ、裕」
「……」
裕の表情は、言いたい何かがあっても言い出せない
といった感じで、辛そうに歪む。
「……ゆたか?」
そんな辛さは語らずとも、肌の触れ合いや
ちょっとした仕草からも十分感じ取れるもので。
ましてや、兄の隆にカテキョをしてもらう以前から
家族ぐるみの付き合いをしてきたから、
裕が重大な何かを胸中に沈めかけていると
分かった。
「……話して? 私は何を聞いても驚かない」
「……本当に?」
「うん」
「……実は、俺、ゲイ、なんだ」
「えっ ―― (絶句)」
その絢音の表情を見て、裕は堪らず吹き出した。
「プッ ―― もしかして、真に受けた?」
「あー、もうっ! 人が真剣に話してた時にっ」
「―― 出発、週明けになった」
「……??」
「……母さんがさ、ちょうど向こうの学校は
9月が新学期だからいいタイミングだろうって」
「……そう」
「って ―― たったそれだけ?」
「じゃあ、大泣きして”行かないで”って縋れとでも?
……うちら、まだ、親の保護が必要な学生なんだから
しょうがないじゃん。泣いたからって……」
言っているうちに感情が昂ぶってきた絢音の瞳から
大粒の涙がポロポロ溢れる ――。
「泣いてどうにかなるもんならいくらでも泣くよ。
私だって裕と別れるの寂しいもん」
その言葉を受けた裕は、何を考えたのか?
絢音の手をしっかり握り締めたまま歩き出して、
自宅のすぐ先にある角を曲がり国道の方へと
歩みを進める。
「ゆ、ゆた ―― どこ、行くの?」
「ホテル。絢とヤりたくなった」
絢音は再び絶句した。
それから数分後 ―― 裕が目指した場所は本当に
ラブホだった。
しかし、玄関に入る直前で絢音が踏みとどまった。
