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夢風鈴

第1章 夢風鈴


 夕食は近所の馴染みの寿司屋から寿司を取り、夫は父の晩酌の相手をした。

 お酒が好きな父。
一緒に飲んでくれる相手が居てご満悦の様子。
ビールも進む。

 美蘭は玉子寿司を口に頬張り、「美味しい」と笑顔になる。

 そんな家族の姿に和み、心が穏やかになっていく。

 「おっと、忘れちゃあいけねぇ」

 そんな事を言いながら、小皿に鮪とイカの寿司を取り、仏壇に供えた父。

 「あっ!!お母さんの好物だ!」

 「そうそう、供えてやらないと化けて出るぞ!」

 『化ける……じゃないけど、さっき見た夢は鮮明に感じたよ……』

  家族に昼間見た不思議な夢を話した。

 「母さんは、自分のようになるなって、凜子に警告に来たんだよ。

 母さんの時は、病院に行った時は末期でな。
助かる見込みもなくて、一人で悩んでいた。
俺が現役の頃は、地方に出張も多くて……気づいてやるのも遅くてな……さぞかし、寂しくて心細かっただろうに……。

 仕事中は滅多に電話を寄こさない母さんが、泣きながら連絡してきて、その時は無我夢中で家に帰った。

 縁側に座って、俺の帰りをずっと待っていてな…………俺の顔を見て、ワンワン泣いた。

 よっぽど怖かったんだろうな……。

 リンリーンリーンって、風鈴の音が鳴り響いていたよ。

 母さんが言ったんだ。

 『初めてお腹に凜子を宿した時、幸せな気持ちでここに座っていた。
辛い事は風に飛んでゆくような気がした』

 ってな。
 
 俺は、母さんが怖くないように一緒に居る時間を増やす事しか出来なかったけどな……」

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