
原稿用紙でラブレター
第2章 年上彼氏の攻略法
「そういえば…」
思い出したように声を上げた大ちゃんが、ビジネスリュックからゴソゴソと何かを取り出した。
目の前に差し出されたのは見覚えのあるスマホ。
えっ、これ…にのちゃんの!?
「これ職員室に忘れたみてぇでさ。
悪いけど届けてやってくんねぇ?」
「…え、」
至って普通にそう言う大ちゃんは、躊躇う俺の腹にずいっとスマホを押し付けてくる。
「ほれ、連絡取れなくて困ってんじゃねぇの?」
「ぁ…」
ニヤッと笑うその顔に圧されて受け取ると、大ちゃんは満足したようにふふっと笑みを溢してふぅっと息を吐いた。
「…んじゃな。あ、たまには遊びに来いよ。
今年の一年お前らより元気良くて困ってんだよ。
先輩からなんか言ってやってくれ」
へらっと笑って俺の肩をポンポンと叩き、来た道の方へ帰っていった。
その後ろ姿を見送り手の中のスマホに視線を落とす。
…大ちゃん、たまたま通ったなんて嘘だよね。
最初からこれの為に来てくれたんだよね。
…ほんと大ちゃんには敵わないや。
俺…大ちゃんみたいな先生になれるかな。
卒業してもこんなに生徒のことを気にかけてくれる先生、どこ探したっていないよ。
ほんとに…
ありがとう、大ちゃん。
心の中で呟いてぎゅっとスマホを握り締める。
…にのちゃんに会いに行ける。
会って俺の気持ちをちゃんと伝えるんだ。
大好きだって、大切だって。
傍にいて、離れないでって。
ずっと…
一緒にいたいって。
それから…
「相葉くん!いつまで掃除してんの!?」
「っ!あっはい!すみません!」
店長の声に我に返り、そこらへんのゴミを急いで拾って慌てて店内へ戻った。
***
店長の目が光るなか時間まできっちり仕事をこなし、ようやくにのちゃんの家へと向かう。
何度か送ったりして場所は知ってるけど訪問するのは今日が初めてで。
20時を回っているこの時間に実家のインターホンを鳴らすのはかなり気が引ける。
けど連絡する術はないから。
…もう、行くしかない。
そう小さく意を決し、やけに早まってきた心臓の鼓動を自覚しつつにのちゃんの家へと自転車を走らせた。
