誰も見ないで
第8章 記憶
「もちろん聞いてた。聞いた上で、まだ頑張れるって思ったの」
俺が言うと、言葉の本当の意味を探るみたいに正樹にじっと目を覗き込まれる
近い近い
ちゃんと本心だってば
「…………なら、いいけど」
でも最後には正樹はちゃんと納得してくれたみたいでほっと息を吐く
「この辺まででいいよ」
「うん。今日はありがと。また来てくれる?」
「夏休み中そんなに忙しくないからいつでも呼んで」
ちょっと寂しいけど、瑞稀君も俺と2人だけより3人でいた方が楽しそうに見えたから
正樹にはまた来てもらおう
俺はまた正樹にお礼を言って、「じゃあまたね」と手を振った
俺も早く帰らなきゃ
そう思って来た道を引き返し始めて、最初の角を曲がったとき
「わっ!?」
「!!」
すみっこに蹲る人影があって、危うくぶつかりそうになった
「こんなところで何してるの、瑞稀?」
人影の正体は瑞稀君で、俺が声をかけると慌てたように早口で話す
「ぁ……あ、の、違くて……正樹君が、忘れ物してたから届けに追いかけて来た、の……っ」
何が違うんだろ? と思いながらも見た瑞稀君の手の中にあるのは、確かに正樹の忘れ物
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