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僕は君を連れてゆく

第59章 巡る季節のなかで

2階にあがると一つの部屋のドアがあいた。

「おかえり」

「ただいま」

「和の部屋、まんまだよ」

隣の部屋。

そっと、ドアを開けた。

俊とお揃いの机の上にはあの日、置いていった
卒業証書があった。

壁を見ると、当時好きだったアイドルのポスター。
っても、男のグループだけど。

5人が重なるように寝転んでいて足が絡まってるやつ。

こんなの飾ってればバレるか…

クローゼットを開けたら学生服がかかっていた。

「懐かしいだろ?」

背が伸びるだろうからって大きめのサイズを買ったけれど、結局ピッタリになることはなかったんだ。

俺だけじゃないよ。俊も。

「俊、ごめん…俺、一人で先走って俊になんも聞かないでただ攻めて…」

俊がいままでどんな気持ちでいたのか、とか。
父さんと母さんがどんな気持ちでいたのか、とか。

全然、考えてなかった。

「なんで、俊、あそこにいたの?」

「あそこ通ると近道なんだよ、バイト先に」

俊は今、家庭教師のバイトをしているそうで。
よく聞けば、雅紀さんの店からそんなに遠くないところで。

「LINE…返事しないで…」

「そうだよ。返事くらい返せよな」

俊は笑った。

だから、俺も笑った。

「和!俊!降りてきなさい」

母さんの声がする。

二人で競いながら階段を降りて。

「俺が先!」

「弟に譲れよ!」

「兄貴に譲るもんだろ!」

「ほらほら、いい年なんだから…ケンカしない!」

「母さんがコーヒー淹れてくれたぞ」

「「はーい!」」

いい匂いが広がっていた。


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