
僕は君を連れてゆく
第37章 背中合わせ
和也は、アイツは、シンガポールと言った。
シンガポールへは6月に入って初めてコンタクトを取った。
俺と櫻井で。
台湾、香港への営業が思ったほどうまくいかなくて。
別のところと二人で話し合って、シンガポールに決めた。
櫻井と俺、しか知らないこと。
それをアイツが…
櫻井が雅紀さんと上手くいってないことは聞いていたけど…
電車で助けてもらった、とか言ってたな…
面倒であまり話を聞いてなかったから覚えてないけど。
それから?
櫻井は和也と連絡を取りながら何ともない顔で俺と仕事をしていた。
腹が立つ。
俺の和也に手を出しやがって…
何にもする気が起きなくて。
ただ、ソファーに仰向けになり天井を見つめた。
なんで、こんなことになったんだろう。
真面目に仕事をしてたら浮気されて。
アイツは誰でも良かったのか?
「はぁぁぁ…」
溜め息ばかりがでる。
俺は悪くない。
俺は浮気はしていない。
俺は…
泣いてたな。
あんなに泣くところを見たのは初めてかもしれない。
だって、
潤が…
そんな風に言ってた…
俺が悪いのか?
考えたくない。
何も。
俺はもう一度、目を閉じた。
「…っん…」
目が覚めた。
頭が痛いし、体も重たい。
完全に、やけ酒のせい。
朝から出社しなければならないけど、櫻井に顔を合わせたくない。
和也から連絡がいってるのか…
重たい体を無理やり起こした。
空き缶が並ぶテーブルを見て、昨日の重苦しい空気がそこにまだあったまま、ということが分かる。
窓を開けたら、空は嘘みたいに晴れていた。
