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密猟界

第3章 嵐吹く刻も─.

 黒く長い髪を振り払うと、礼拝堂を隅々まで点検でもする様子で、聖壇に向かった。「消えろ、─失せろ…!」ユノの猛虎の咆哮そのままの、怒号に女はびっくり人形の動きで振り向いた。「ユノ」チャンミンがユノの肩に手を掛ける。
 「出て行くのは…そっち、─あんたたちよ」「失せろ。サタンの雌犬」云うなり、ユノはチャンミンがユノの為に用意した、ミネラル・ウォーターを、コップごと黒ずくめの女に、投げつけた。 ─人間でも、獣でもない、異様な音なりが、女の大きく空いた紫の口から、漏れ出した。
 その音は、ドンドン大きくなり…黒魔女のような姿は逆に縮みはじめ…黒ずんだ折り鶴ほどの小ガラスになって、礼拝堂の入り口に弧を描いて、飛んだ。
 ハリケーン間近の乱舞する狂風が、教会のドアを、乱暴に、開け放った。
 風の叫び声なのか…女─黒い小さなカラスが空中を切り裂く音をさせ、外へと逃げ、飛ぶ。
 ……ところが、小ガラスの体はポトリと地面に向かって落下する…途中でクシャクシャの黒い紙玉になり…ひとすじの黒煙になり…消えた。
 ──跡形も無く、ハリケーン風が、それを拭うように、吹き荒れた。

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