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密猟界

第8章 狩りの時刻

「あれ…、俺、部屋で─夢にも」「知ってるんですか」「ソルマ(まさか)…」ぐったりした女の顔は、しだいに老婆に変わっていく。黒水牛は豚そっくりの鼻を、女の豊かに隆起した胸にブォブォ息を吐きながら、押しつける。弾けそうな乳房は途端に、ミイラのように干からびた。
 それが不満だったらしく、黒水牛は今は老婆に変わった女の顔を両手のこぶしで殴り、首を絞めにかかった。瘤だらけの古代樹の幹を思わす野太い胴体に、毒蛇のように巻きついていた女の両脚が、垂れ下がりゆらゆらと踊る。深紅のペディキュアの先から腐肉が覗く。
 「チャン…ミン」「もうだからユノ帰り─」轟音と呻き、黒水牛と老婆に変わった女は消えた。 濡れた墨のいろの大きな鱗の塊が、床下から湧き出てふたつの化け物を呑み込み、再び地下に潜っていった。



 「ユノ。…僕もう嫌だ」「うん」ため息を吐き、前髪を払いのけた。「帰ろうよ」「出口が、ない」「─え?」階段に座っていたが、「下に行こう。ダイニングで話そう」



 ────────────紅茶にブランデー、カップのふちまで広がった金の輪を呑み込む……「ユノ。あれは、…」「大蛇だろ」「──」

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