続・あなたの色に染められて
第3章 知らない過去
『これはどうかしら?』
『素敵な椿柄ですね。』
『落ち着いた色だし柄もいい大きさだと思うの。』
畳の上にはいくつもの反物が折り重なっていて
『京介くんにはこれ。同じ生地なんだけど無地のタイプ。なかなか渋いでしょ?』
『はい!この色なら京介さんにも似合いそうですね。』
女将さんと膝を付き合わせてかれこれ一時間。
まぁ こうなることは安易に想像できたけど 閉店時間もとっくに過ぎてシャッターも閉められた貸し切り状態のこの店
『すいません 先輩。』
『まぁ 女ってこんなもんよ。』
女性陣のやり取りを横目に帳場で先輩とお茶を嗜んで
『京介さ~ん これはどうですか?』
反物を合わせて振り向くコイツは何を合わせたって似合うのに
『いいんじゃない?』
クリーム色の生地に色鮮やかな椿の花が咲く柄は璃子の色の白さをより際立たせて
『京介さんはこれなの。どうかなぁ。』
重そうに反物を片手で持って俺の胸から肩に合わせ 鏡越しに俺の顔を見上げて
『うん!いい感じ。』
とびきりの笑顔を見せれば
『じゃあ これにするか?』
『はい!』
璃子は反物を胸に抱いて女将さんのもとへ戻ると
『あの…これに合うお揃いの帯はありますか?』
『ハイハイ、もう 用意してあるわよ。』
『うわぁ どれにしよう。』
まだまだ時間はかかりそう。
***
昨晩 アイツの胸につっかえていたモノを吐露させた。
沙希と色恋なんて120%有りえねぇのに
帯を俺にかざしては首を傾げる璃子には不安要素そのものだったようで
『俺はいいから璃子が決めな。』
『はい!』
その不安を少しでも拭い去りたくて求めすぎた俺とそれに応えすぎたアイツ
『竜介が言う通り、俺も嫁にするならあんな娘がいいな。』
『そうですよ。先輩も早く見つけないと。』
浴衣ひとつでこんなに喜ぶなら 来年も再来年もずっと新調しなきゃいけねぇな。
『それよかさ おまえ 沙希と一緒に働いて大丈夫なわけ?』
『またそれですか?』
『だって 沙希はずっとおまえのこと…。』
若旦那もまた 幼馴染みの一人
『ガキの頃の話ですよ?』
『マジで気を付けろよ。京介はなんとも思ってなくたって 沙希の初恋はおまえなんだから。』
知らなくていい話まで知ってるもの
『だから 大丈夫ですって。』
過去は過去なのに…
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