
虞犯少年
第27章 鼓膜が裂けるコミュニケーション
道の端に止まっていた真っ黒な車に乗れと指示をされる。私は言われるがままそれに従って後部座席に乗り込んだ。車内には運転する人。私の隣にあの男。意外にも3人だけ。もっと人数がいると思ってた。だからって私が置かれてる状況は最悪なものに変わりない。
「んな、怯えんなって。何も今すぐ犯そうなんて思ってねぇから」
肩に手を回された。喉を鳴らして愉快そうに笑う男はどこか勝ち誇ったように私に視線をよこす。自分が今一体どんな表情を浮かべてこの男を見たのかは分からないが「いいねー、その顔。ゾクゾクする」と危ない発言が耳に入って思わず体が固まる。
「あなた…誰?」
「っはは。明日香ちゃんは俺を知らないんだ?まあ、しょうがないか。明日香ちゃんってなんか染まってない感じだしね」
染まる?染まらない?何が?
聞けずにいる私は黙って耳を傾ける。
「俺は真碕寛哉(まさきひろや)。悪いけど九条嵐を潰させてもらうね」
口調が優しすぎて気持ち悪い。
真碕寛哉…ドクンと心臓が鳴る。
九条嵐という名前が出てきた瞬間、胸が痛んだ。
嵐を潰す…?ありえない。嵐が潰される訳ない。負ける筈がない。そうは思っても目の前の男はニンマリと笑って私の不安を掻き立てた。
「携帯かして」
「……嫌、」
「言ったよね?酷い事されたくなかったら俺の言う事聞けって」
パシンと乾いた音。ジリジリとした鈍い痛みに頬を殴られたんだと重い頭が理解する。
顔は笑っているのに、目が笑っていない。
―――怖い。真碕という人は無理矢理私の鞄の中から携帯を奪い取ってカチカチと操作をしそれを耳に押し当てた。
