
神様の願い事
第12章 “好き”の向こう
翔「俺がなんで結婚しなかったか分かる?」
智「いや…」
容姿端麗の上知性も兼ね備えた優しい男が結婚をしない。
当時メンバー内でも話題になった程だ。
翔「貴方が結婚しないって言ったからだよ」
智「俺?」
さっきまでの笑みを隠し、翔くんは俺を見る。
真っ直ぐに見て、一息吸い込むと口を開き出した。
翔「“あ、この人誰のモノにもならないんだ”って思った…」
智「え…?」
翔「確かにその時自分の感情に気付かないようにしてたのかも分かんないけど、多分とっくに気付いてたんだよ。奥の方では」
ベッドから身体を起こして、俺に向き合って尚も話すんだ。
翔「多分智くんが結婚してたら俺もしてたよ。だけど“しない”って言ったから…」
結婚になんて端から興味は無かった。
だけどそれが何故興味の無いものになったのかと言うと。
翔「俺は素直に生きただけだよ」
智「素直…?」
翔「貴方が誰のモノにもならないんなら、俺も誰も要らないかなって…」
俺には縁のない事だとどこかで思っていたからかもしれない。
翔「貴方がひとりで生きていくなら、俺もひとりでいいかなって。そう、思ったんだよ…」
どれだけ想えど叶わない。
そう、感じていたからなんだ。
翔「ねぇ智くん」
智「ん?」
話し終えた翔くんは、ふうっと息を吐いて優しい笑みを零した。
翔「俺がそっちに行ったら、貴方に触れられる…?」
だけどその顔はちょっと泣きそうで。
翔「貴方を抱きしめる事は出来る…?」
声だって震えて。
智「なんだって、できるよ…」
触れる事の出来ないこの手を伸ばして、俺はそっと翔くんの頬を包んだ。
智「魂で触れ合える…」
俺の手はじんわりと温もりを感じて。
頬を伝う涙を拭う事ができた。
智「ほら、ね…?」
そうだ、俺達はなんだってできる。
正直に生きる事ができなかった俺達でも、素直に生きる事はできたんだから。
翔「…連れてってくれないの?」
智「まだだよ(笑)」
涙を拭った俺はその色が消えそうで。
智「次、迎えに来るから…」
翔「ん…」
翔くんの返事を聞くと共に、名残惜しさを胸に抱え俺は時空へ吸い込まれていく。
すぐそこに居るのに触れ合えないもどかしさを胸に。
翔くんへの愛を胸に抱えたまま。
