
神様の願い事
第11章 オトコの役割
智「なんで翔くんち?」
翔「なんでって…」
ムクリと起き上がった智くんは、辺りをキョロキョロと見回して口を開く。
智「あ、あれか。お説教だ」
翔「正解」
涼しい顔をして答えたが、実はお説教なんてものはとっくに忘れてた。
翔「で、どういう事なの。治ったんじゃなかったの?」
だけど折角大事な事を思い出したし、その流れのままお説教に突入してやるんだ。
智「あ~…」
翔「あ~じゃなくて。どうなの」
ちょっぴり睨んでやった。
すると智くんはちょこんと座った姿を更に縮こませ、上目遣いで俺を見る。
智「や、よくわかんないんだけど、なんか… 出ちゃって」
バツの悪そうな顔をして、肩を竦めて答える。
眉も下がって申し訳なさそうな事この上ない。
翔「て事は、治ってないんだね?」
智「え~と、それは」
翔「治ってないんだよね?」
智「う、はい」
俺が睨みを効かせると小さく纏まって。
チラチラとこっちを見るのも凄く可愛い。
だけど今はそんな事を言ってる場合でも無く。
翔「どうして? 何か心当たりある?」
智「いや…」
幸せを手に入れたら治るんだと言ってたのに。
智「“名残り”だよ。残ってるだけなんじゃないかな、猫の成分が」
翔「名残り…?」
智「だってホラ、そんな出ないし」
翔「今日出たじゃん」
智「それは…、たまたまじゃん。いっつも昼出ないでしょ?」
翔「まぁそれは、そうだけど…」
確かに前に比べると雲泥の差だ。
だって俺にバレたと思った瞬間、俺の前じゃ出っ放しだったし。
翔「けどさ」
智「うん?」
翔「なんか変わってなくね…?」
だけど前と少し様子が違う。
翔「前はさ、撫でたりすると余計に出てたのに、今日は“出た”のをキスで治したじゃん」
俺の側にいると安心するから出ちゃうんだと、俺が元凶のような口振りだったのに。
翔「俺が居ると“出る”んじゃなくて、今日は俺じゃないと“治せない”だったでしょ?」
智「ああ…」
小さな声で返事をしながら俯く智くんは、治し方を知ってるんだ。
現に今日、智くんの言う通りにしたら猫化はあっという間に治まったし。
“出ちゃう”理由も、智くんは分かっているのかもしれない。
