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神様の願い事

第5章 混乱

《sideS》



翔「えっ...と」

智「ん?」


智くんはじゃれている。


翔「どうしたの、かな? 何かあった?」


俺に擦り寄って、今にもゴロゴロと喉を鳴らしそうだ。


智「何って、別に何も無いよ?」

翔「あ、そう...」


楽屋のソファーに座って固まる俺に、智くんは物凄く懐く。
俺は座ったまま微動だにしてないのに、俺と智くんの間に隙間はない。


智「んふ、いい匂い...」


俺に凭れて、気持ち良さそうに目を閉じる。
目を閉じただけなのに気持ち良さそうに見えるのは、智くんが笑っているから。


翔「本当どうしたの? 今日は凄く甘えるね(笑)」

智「あ」


普通に仕事に来て、普段通りに楽屋に入ったんだ。
“おはよう”といつもと変わらぬ挨拶をして、いつものように定位置に座った。


翔「ん?」

智「逆だったね。これじゃ俺が甘えん坊だ」


ソファーじゃなく椅子に座る俺に、智くんは歩み寄ってきた。
俺の側に来て、少し首を傾げて。
それで俺の手を取ったんだ。
“こっちにおいでよ。ソファーでゆっくりしよ?”とかなんとか言いながら。


智「はい」

翔「え?」

智「抱っこ。してあげるよ?」


俺の胸に飛び込んで来いと言わんばかりに、大きく両腕を広げて待ってる。


翔「ぐふっ」


俺はドキドキして。
嬉しいけど、この展開に頭がついて行かなくて。
それでちょっとフリーズしたら、智くんに捕まった。


翔「ちょ、さと」

智「ふふっ」


俺をその暖かい胸に押し付けてむぎゅむぎゅと抱きしめる。


智「サラサラだね。翔くんの髪...」


まだメイクも何もしてない。
洗いざらしの素の髪を撫でて、智くんは俺の頭の上で優しい声を聞かせた。


智「あ、枝毛(笑)」


ふんわりと柔らかい声を出したと思ったら、途端に無邪気に笑って。


智「ふふ、こっちにもある...」


この展開に至った経緯を考えようかと思ったけど、もはやそんな事はどうでも良くなった。



とりあえず今は、この声を聞いていたいんだ。







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