愛しの殺人鬼
第1章 ひまわり畑
「……」
死ぬ覚悟はした。
ーーーなのに、男はぱたりと動きを止めてしまった。
不思議に思って顔をあげると、
「なんて顔してるんですか」
男は目を点にさせ、瞬きすらせずに固まっていた。まるで石のよう。男前が台無しだ。
「…いや、澄ました顔して随分ロマンチストなんだなと思って」
「何気に失礼ですよねそれ」
「ていうか変人だなって」
「だから失礼ですよねって」
正気に戻っての第一声がそれか。しかも死ぬ前にこんな失礼な言葉を何故聞かなくちゃいけないんだ。
呆れていると、またズキリと下半身が強く痛んで顔を歪めてしまった。
「どうしたのその顔」
「…」
また失礼な言い草だな、とは思うけれど、ふと疑問が頭に浮かぶ。
「聞いてもいいですか」
「何?」
「そのナイフとセックス、どっちが痛いんですか」
「、」
ーーーブーーン。
近くに止まっていた蝉が、音を立てて間を通り過ぎた。
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