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今宵もネムリヒメに素敵な夢を...♡

第4章 バレンタインの事情♡その③








時計は午後の2時をとっくに過ぎていた。

朝からなにも口にしていないこいつがそう言うのは当たり前か…

うっすらと瞼をあげるといっこうに微睡みから抜け出そうとしないオレを前に頬を膨らませている彼女がいた。


「ガトーショコラ…甘くないやつ」

「へ…」


返事の代わりに手を伸ばして抱き寄せ、素肌に纏ったブランケットを剥ぎながら耳元でそっと囁く。

案の定、なんのこっちゃ!?という顔をする千隼。


「あとはなんも要らねぇから…」


なんの突拍子もなく、オレがなんの要求をしてんのかこいつが理解できてんのかできてねぇのか、正直よくわかんねぇけど…

難しいなぞなぞを出しているわけじゃない。

この時期にチョコレートの焼き菓子作れと言ってるんだ、さすがにわかんだろ。

っていうか、分かれ。


…そういや今朝のオフィスからの電話で、オレ宛に客から差し入れられたチョコレートに手に出した愚か者が死にかけたと報告を受けた。

ぶっちゃけ、こんなの毎年恒例の出来ごとだから、別に今更驚かねぇし、まわりにはくどいほど気を付けろと警告はしてあった。

だからと言って、その愚か者を咎めるつもりもないし、中身が金品だろうがチョコレートだろうが好きにしてくれて構わない。

ただ、冗談抜きで下手したら死ぬぞ…

むしろ尊い犠牲を労災扱いで見舞ってやりたいくらいだ。

昔からこの時期のオンナってある意味すげぇと毎年思い知らされる。

そんなオレがたった一個のチョコレートに純粋に喜んでたのはいつまでだったろうか…

…記憶をたどったが覚えていなかった。




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