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素晴らしき世界

第31章 向かい合わせ

和也くんが俺の気配に気づき、
ベンチから立ち上がって振り返る。

「ご、ごめん。待たせて…
はぁー、めっちゃ走った…」

膝に手を置いてまずは息を整える。

「どうしたの?」

不安そうな和也くんの声を吹き飛ばすように、
小さな箱を目の前に差し出した。

「はい、ちょっと早いけどお誕生日おめでとう!」

目をパチパチして俺と小さな箱を交互に見つめる。


あれ?

リアクションが……ない。


「ケーキ!好き?」

俺の言葉に和也くんは俯いてしまった。

「あれ?甘い物苦手だっけ?」

リアクションが無いから不安になる。

「…っき…」

ようやく返ってきた反応は、か細くて震える声。

「好き…です…」

「泣くほど好きなの?」

差し出した小さな箱に手を伸ばすために
ようやく上げてくれた顔。

思った通りその瞳からは
涙が止めどなく溢れて頬を流れ落ちていく。


わかるよ?

久しぶりに人に何かをしてもらったもんね?


俺もだよ?

久しぶりに人に何かしてあげたの。



だってずっと俺たちはひとりだったから。


和也くんは小さな箱を受け取ると
大事そうにギュッと抱きしめようとする。

「あっ!!」


俺は……腕を引っ張り抱き寄せた。


目の前の……和也くんを。


「あっ…」

何かが落ちる音が聞こえた。

それが何かわかっているけど、
腕を解くことは出来なかった。

和也くんも何も言わず、
震えてながら俺の身体に腕を回した。



お互いに求めていた温もりが……ここにある。



「なんで泣くの?」

「…嬉しくて…ありがとうございます…」

ゆっくりと俺から身体を離すと、
ジッと俺の顔を見つめた。


「すごい、汗…」

『もう……翔、汗かきすぎ!』


目の前の和也くんに
雅紀の声と姿が重なって見えた。


「二宮さん…」

それを振り払うようにもう一度抱きしめた。


でも気づいてしまった。

それが求めていた温もりではない事を……


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