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素晴らしき世界

第15章 それはやっぱりあなたでした

【二宮side】

『……抱きしめてっ』

心の奥底から溢れ出た言葉。

大野さんは何も言わず、
俺の背中に腕を回し引き寄せる。

お互いの頬が重なったかと思ったら、
俺の首に大野さんが顔を埋めた。

温かい吐息が首筋を擽る。

俺は、不思議な感覚に襲われた。


初めてなのに懐かしい……


記憶には無いのに、
心と身体が大野さんの温もりを覚えている。


自然と俺も大野さんの背中に
腕を回して抱きしめた。


大野さんはどうなんだろう……


どうしてキスしたの?

どうして抱きしめてくれるの?


なのに……


どうして悲しい顔をするの?

どうして泣いているの?


大「二宮さん……」

大野さんが顔を上げて
俺の肩に手を置いてを見つめる。

大「ごめん……」

重い一言が心にのし掛かった。


やっぱり……


そうだよな……


大野さんにとって俺は誰かの代わり。

見つめる先には俺は映っていない。


大野さんに何を期待してたんだろう……


俺を好きでいて欲しかったのか?

俺のことを想ってて欲しかったのか?


どうして俺は
そんなことを願ってしまうのだろう……


答えは簡単だけど、認めたくなかった。

俺の想いは永遠に叶うことはない。

いっそのこと、蓋をして
心の奥底に沈めておくべきなんだ。


時が経てば忘れる……


でも、大野さんの近くにいると
どんなに押さえようとしても浮上してくる。

もう、ここにはいちゃいけないんだ……

俺はなにも言わず、
寝室を出ようとドアに向かった。

大「ちょっと、待って!」

「離してください……」

大「嫌だ」

掴まれた手首に痛みが走る。

「お願いです、離してください!」

言葉とは裏腹に掴まれた手首を
振り払うことができない。

大「絶対に嫌だ!」

俺の腕を引っ張り、抱き寄せた。

さっきよりも強い力で抱きしめられる。


誰を想って、抱きしめてる?


……俺だよね?


大「行かないで……」


その言葉は誰に言っているの?


俺に向けて言ってるって思っていい?


「大野さん…っ」

俺は胸に顔を埋めて泣いた。

涙が大野さんの服を濡らしていく。

大「二宮さん……」

背中を擦りながら
何回も優しい声で俺の名前を呼ぶ。


お願い……

今だけは、俺のことだけ想って……

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