
例えばこんな日常
第9章 いてもたってもいられない/AN
「…ただいま」
唇をゆっくり離してそう言うと、逆さまのにのと目が合う。
「…おかえり、」
ごくっと一息呑み込んで呟き、もぞもぞとスウェットを直してるけど。
…今さら何やってんの。
現認されてんのにごまかすつもり?
込み上げてくる高揚感はそのままに、素知らぬ振りのにのの元へ回り込む。
わざとぴったり密着して座ると、一瞬で耳のふちが赤く染まって。
そんな横顔にニヤけつつ、傍らに転がったリモコンを取りテレビを消した。
「ただいま」
「…おかえり」
「寂しかったの?」
「…べつに、」
平静を装ってるつもりだろうけど、バレバレだよ。
ほら、行き場がなくなった左手をどうしようか考えてるじゃん。
「なにしてたの?」
「っ、え…」
「…ねぇこっち見て。本物の俺を見てよ」
全くこちらを見ようとしないその赤い横顔。
耳元でそっと囁くと、微かに肩が動いてゆっくりと顔が向けられた。
眉を下げた熱っぽい潤んだ瞳で、じっと俺を見つめる。
もう、そんな顔されたら…
ふふっと笑みを溢し顔を近付ければ、迎えるように口を少し開けるにのが愛おしくてたまらない。
触れ合った瞬間から舌を絡み合わせ、深いキスを繰り返す。
いつもならそうしてる内ににのを押し倒すパターンだけど。
あんなの見ちゃったから…俺、超興奮してる。
…続き、見せて?
ちゅっと音を立てて唇を離すと、まだ欲しいのか追うように唇を寄せてくるにの。
にのも切羽詰まってんだよね。
だってあそこで中断させられてんだもん。
…大丈夫、ちゃんと気持ち良くしてあげるからね。
せがむようにぐっと唇を押し付けるにのが、顔を引いた俺に気付いて動きが止まる。
不思議そうに見上げるその潤んだ瞳に、至近距離で囁いた。
「…さっきの続き、見せて」
「…え、」
「俺のこと考えながらさ…シてみて?」
「っ、な…!」
ニヤり口角を上げると、蕩けていた顔が途端にはっきりと歪んで。
「っ、やだよ!何言ってんのよ!」
「え~いいじゃん!1回だけ、ね?」
「やんねぇよ!変態かよお前、」
「あ、そうゆうこと言う?お前だって一人でシてたんでしょ?テレビの俺観ながらさ、」
そう言うとぐっと押し黙って、ほんのり頬が赤く染まっていった。
