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あなたの色に染められて

第35章 幸せのタネ


『璃子。おまえいい加減にしろって。』

『ちょっと待って。あとこっちのお部屋 掃除機かけるだけですから。』

誕生日だっていうのに璃子はいつもと変わらずスリッパをパタパタさせながら家事をこなす。

雨も降り 美紀ちゃんの面会にも行くことになったから 俺が計画していたテーマパークへは次の機会にってことになったけど

『…ったく。』

俺の時にはしおりまで作って朝から晩まで色々と楽しませてくれたのに

「一緒にいられたらそれだけで充分。」

なんて まったく欲のないできたオンナ。

『終わった?』

『はい!…あっ。コーヒー淹れてくれたんですか?』

『ほら ここに座んだろ?』

璃子が淹れてくれた方が何倍も旨いけど 今日はコイツの誕生日。できることは全部やってやりたくて。

『…おいしぃ。』

俺の脚の間に腰を下ろして 両手でカップを持って胸に凭れかかる。

ベッドの中で せっかくの誕生日だから行きたいところはないか?と聴いたら

「ずっとこうしてたい…。」

と 胸に頬を寄せて抱きついてきた。

離れていた分 寄り添っていたいと。

「ワガママかな…。」

なんて 遠慮がちに。

俺を独占できるのは贅沢なことだと 降り続く雨にまで感謝なんかしちゃって。

だから 面会に行くまでの時間 微笑みあって 抱きしめて 何度もキスをした。

誰にも邪魔されない二人だけの時間だった。


***

夕方 美紀ちゃんの大好物のシュークリームを買って病室を訪れると

小さな小さな天使はぐっすりとおやすみ中。

『美紀…がんばったねぇ。おめでとう…。』

それはそれは嬉しそうにカゴの中の天使を見つめて。

『璃子と同じ誕生日になるかなぁと思ったら この子男の子だからホワイトデーじゃイヤだったみたいで。』

『そうだよね。自分の誕生日に女の子にお返しするんじゃね。』

まだ夢の中の天使を美紀ちゃんは抱き上げて

『ねぇ…抱いて上げて?』

『…いいの?』

『もちろんよ。』

美紀ちゃんから新しい命を預かると

『…産まれてきてくれてありがとう…。』

璃子は柔らかく優しく微笑んで瞳を潤ませる。

『京介さん 見て…笑ってる。』

その笑顔はなんとも微笑ましく

『ホントだ。直也に似なくてよかったな。』

俺からすれば天使が天使を抱いてる。そんな優しさに包まれた光景だった。

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