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あなたの色に染められて

第31章 分岐点



『だから 困るって!』

『いい加減 貰ってくださいよ!』

  梅雨の合間の土曜日。今日はなんとか天気がもちそうなそんな曇り空の下 困り果ててるイケメン男子一名。

京介さんが駐車場に到着すると逃げられないようにしっかり捕まえて プレゼント片手に今日こそはと意気込む萌ちゃん。

『…だから なんでおまえとお揃いで“G-shock”付けなきゃいけねぇんだよ。』

『今年の“ラバコレ”ですよ!』

璃子ちゃんとのペアリングに対抗してペアウォッチを京介さんにプレゼントしようとする一匹狼ちゃん。

『俺 時計つけねぇって言ったよな?』

『だから これを機にって!』

鉄のハートの持ち主とはまさにこの娘のことで…

ここ1ヶ月 毎回繰り広げられる光景を京介さんの車に同乗してきた俺は後ろから眺めていた。

でも今日はもうそろそろ引いた方がいいかもしれない。だって今日の京介さんはすこぶる機嫌が悪い。

車の中でも俺の助手席でため息と舌打ちを繰り返していた。理由はたぶん璃子ちゃんのニューヨーク行き。

この夏向こうに行って2年になる璃子ちゃんが帰ってくることを微かに心待にしていた京介さん。

でも ずっと待っていた璃子ちゃんからの返事は3月の春まで延期。さらにニューヨークに同行なんて聞きゃそりゃご機嫌も悪くなるわけで。

『ねぇ~。先輩!萌からのプレゼント受け取ってくださいよぉ。』

事情を知らない萌ちゃんはいつもの通り京介さんの腕を掴みながら気持ちを押し付けていた。

『あぁ もう!執拗いんだよ!』

萌ちゃんの腕を振り払い 久しぶりに見るあの冷めた上から目線。

ほら言わんこっちゃない。

俺は俯く萌ちゃんに忠告しようと近づいたときだった。

『…ここに居ない璃子さんにそんなに気を使わなきゃダメですか?…先輩 あの人に放っとかれてるんですよ?』

はぁ… 言っちゃったよ…萌ちゃん今日はダメだって。

京介さんは立ち止まり天を仰ぐと踵を翻し萌ちゃんの前まで戻ってきた。

なんだよもう!せっかく久しぶりに野球できると思ったのに…

『京介さんグラウンド行きましょ。』

俺は京介さんの腕を取りに引き戻そうとするけど

『…離せ…直也。』

『…あ。』

今まで聞いたこともない低音で俺の手を振り払うとそのまま萌ちゃんの肩を掴んだ。

頼むよ璃子ちゃん…早く帰ってきてくれよぉ。

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