あなたの色に染められて
第28章 離れていても
『京介!バックホーム!!』
外野から勢いよく放たれた白球はまっすぐな軌道を描き 佑樹さんが構えるキャッチャーミットに吸い込まれる。
走り込んできた 俊足のランナーに体を張ってブロックする形でグローブを押し付け審判の判断を待つ
一瞬の沈黙のあと 審判は大きく手を振りかぶり
『…アウト!…ゲームセット!!』
『よっしゃー!!』
野手もベンチもスタンドもガッツポーズしながら空に吠え 肩を抱き合う。
京介さんは佑樹さんとハイタッチしながら整列し
『…ありがとうございました!!…』
春大会の優勝の立役者になった。
『カンパーイ!!!』
『いや~マジで痺れたわ』
『あれ抜けてたらサヨナラだったもんなぁ…京介様々だよ…』
『璃子ちゃんが見てたら泣いて喜んだだろうね』
『…璃子な…アイツはたぶん…泣くな…』
京介さんは胸にかかるリングをそっと摘まみ クスリと微笑んだ。
あれから2ヶ月。桜が咲き始めた3月の終わり。
俺たちは京介さんのファインプレーに助けられ 春大会を優勝した。
『璃子ちゃん元気?』
『…あぁ…今日はニューヨークに行ってる予定』
『忙しいんだね』
『…みたいだな…』
*
璃子ちゃんが旅立ったあの日 俺たちはいつもの4人で酒を酌み交わした。
それは京介さんの寂しさを少しでもまぎらわすためでもあり ノロケを聞くためでもあり
「…笑顔で送り出したよ…アイツ…ずっと泣きっぱなしだったから」
ロックグラスを回しながら 寂しげに微笑む京介さんの心もきっと泣いていたと思う。
色々あってやっと元に戻れた二人。
それは たぶん二人の運命で。
「…寂しくなったら呼び出せよ…酒ならいつでも相手にしてやるから」
長谷川さんは京介さんの肩をポンと叩いて その心に寄り添った。
『そう言えば 璃子ちゃん誕生日だったでしょ?』
『あぁ 頭に24って書いてあるデカイ王冠つけた写メが送られてきてたよ』
『向こうで祝ってもらったんだぁ』
『…だな…』
京介さんたちは 一度も誕生日祝いあったことがなかった。
去年の3月14日と京介さんの誕生日の5月3日は記憶を無くし 今年は璃子ちゃんがアメリカ…
『よし!璃子ちゃんの誕生日を祝してぇ…いくよ!…カンパーイ!!』
グラスを高く上げここにいない璃子ちゃんの誕生日を祝った。
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