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甘く、苦く

第55章 にのあい【俺だけのDisco Star】






……あー。


なんつうの。これ。


「……ふは。」

「ん?」



雅紀が急に笑い始めた。


「ニノに抱き締めてもらえるなんて、
俺、幸せじゃん。」


……あぁ、そういえば。

抱き締めるのは
いつも雅紀からだし、
キスするのも雅紀から。

…んー、なんつーの?


主導権は俺なんだけど、
雅紀がリードしてるっつーか。

てか、主導権握ってんのって、
いつの間にか雅紀だったりする?



「んふ、俺幸せ。」

「俺も。」


ぎゅっと強く抱き締めると、
雅紀の匂いがすうっと
俺の体に入り込んでくる。


鼻孔を通り抜ける、
甘いけど、爽やかな柑橘系の匂い。

多分、香水。



「あー、もうこんな時間じゃんかぁ。」

遅れちゃうね、なんて
二人で話す。

いつもなら、

「翔ちゃんに怒られるっ」

とか

「うわぁ、迷惑かけちゃう…。」

とか。


周りの目を気にするくせに。



今日はなんだか、
ゆっくり。

時間がゆっくり進んでいる。


「…あ、」

「ん?」


助手席に座る雅紀が
声をあげた。


「スマホ忘れたー」


なんて、呑気に言う。


いつもの俺なら、
怒鳴るんだろうけど。


「ん、とっておいで。
待ってるから。」


って、素直に、優しく言えた。




「ふは、ニノ優し。」


なーんて。


俺の欲しい言葉を
全部言ってくれるんだ。

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