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ネムリヒメ.

第26章 夜明け.







「あ…悪い。キー、忘れたわ…」



渚くんの登場によって、一時的にピンポンラッシュが鳴りやんだ廊下にそんな呟きが落とされた


えーと…


「渚くんはなんのために部屋を出たのかなぁ♪
セメント取りに行ったんじゃないの?郁くんを海に沈めるためのセメント取りにいったんじゃないの?」


アタシを抱いたまま顔をあげた渚くんに、言葉通り一時も握った手を離さなかった聖くんが半分冗談としか思えないような世にも恐ろしいことを言ってのける


「アホ、着替えだ。…にしても悪い。こいつの買った山積みの荷物に気ぃとられてジャケットから抜くの忘れてきた」

「…あぁ♪」


妙に納得する一同


山積み…

荷物…

頭のなか、物で溢れるそこは間違いなく彼のオフィスの一室、社長室だ


「…なかに葵がいるから」

「頑張れ、達人♪」

「それホントかよ」


その声に再開される神業級のピンポンラッシュ


しかし、


「………」


あれ…


「…恐らく、な」

「はぁ!!?」



─そして数分後…


「チッ…葵の野郎!!寝てたら殺ス。起きてても殺ス。
…もう指痛ぇわ。渚さん、面倒だけどキー取ってこようぜ」

「…やっぱお前ってツカエナイ」

「あ゛ぁ!!?」


妙な間をおいて付け足された渚くんの"恐らく"が、危うい現実みを帯びてきて、苛立ち始める達人とともに未だ応答のない部屋の前…

扉のむこう側にいるはずの葵くんはいっこうに姿を見せていなかった




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