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ネムリヒメ.

第25章 Black Emperor.






そんな時…


『…貸せ、雅』


あ…


電話の向こうから聞こえた気持ち悪いほど落ちついた渚くんの声が、意識を飛ばしかけるオレを現実に引き戻す


それから…


「……手…錠」

『あぁ…そうだ』


余りの衝撃に渚くんの言葉を反芻することしかできないでいるオレに、静かに低められた彼の声はありのままの事実を告げてきた


媚薬…

手錠…

発砲…


次々と嫌な言葉を聞かされる


郁くんとちーちゃん…

ある程度の想像と覚悟はしていたけれど、現場を目の当たりにすることなく他の誰がによって伝えられた事実はあっという間に俺の目の前を真っ暗にした


『っ、…聖』

「ん…」


渚くんにそんな返事しかできず、目元を手で覆ったままその場にズルズルとしゃがみ込む

雑沓の声も聞こえず、光りも届かない

ただ、


─ちーちゃん…


ただ胸が張り裂けそうで、

虚無の空間に佇むような感覚だけがオレを包んでいた


だけど…


「で…」

『…!?』

「…オレは何をすればいい」


しばらく沈黙したオレは、そのまま数十秒間なにも言わず沈黙を分かち合ってくれた渚くんにそう返していた


今すぐ、ちーちゃんに会いたい…


…だけど


「オレは何をすればいいの」


こんな風に胸を傷めているのはきっとオレだけじゃないから…


"…千隼の手錠の鍵を探して欲しい"


オレはその言葉にすぐに踵を返した




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