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【S】―エス―01

第6章 我が目に棲む闇

 刹那は、相変わらず目線を合わせたまま言った。


「本当はね、先生だけは生かしてあげようと思ってたんだよ」


 顎に添えていた右手をぱっと離すと、散らかった研究室の台に腰を下ろす。


 子供のように宙で両足をぶらぶらとさせて、真理の方へちらりと視線を移した。


 刹那の言葉を聞き、真理の瞳にほんのわずかな希望の光が宿る。


 だが、刹那はそれを見逃さなかった。まるでその希望の芽を摘み取るかの如く、彼女に背を向け言い放つ。


「でも、やめた!」


 台からひょいと床に飛び下り、辺りをうろつく。ふと何かを思い出しでもしたかのように天井を見上げ呟いた。


「そういえば……」


 天井から視線を逸らし、背後の真理を捉え言う。


「『彼女』の記憶も書きかえたんだね」
 

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