
【S】―エス―01
第35章 綻び
「いや……。だがやはり、人が『人』を造り出すだけならまだしも、操るなんて不可能だ」
最後の方で消え入るように、そのようなことを口にした男は、ハロルドから視線を逸らし、大きく横にかぶりを振る。
「ただ、君が以前の君でいてくれることを願うよ」
男の独りごちた台詞を耳にして、ハロルドの彼を見据える視線に宿る毒気も消え、
「何を藪(やぶ)から棒に。私はずっと前から変わりませんよ」
そう言ってゆっくりと瞬きをした後、口の端をつり上げくすりと笑う。
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視界に映り込む写真を前に思い出された当時の記憶、彼の言葉。
――『人が『人』を完全に操ることは出来ない』
机の上に転がった、金色のピンバッジが鈍く光る。十字架に*(アスタリスク)の模様が施された、細やかな造形のピンバッジだ。
(やはり、あの男の言ったとおりだったのか? しかし、教会はもう――)
いや、そんなはずはないと首を振り、自身にとって下らない思考を掻き消し、くるりと踵を返す。
