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【S】―エス―01

第29章 S‐145

 自分殺しの罪は消えない。淡々とそう続け、足元に散らばった蝶の残骸をじっと眺める。


 その表情からは、わずかな感情の動きすらも窺わせない。


 左手首に巻きついた見覚えのある銀色の物体。明かり取りから差し込む青白い光に冷たく輝く。


 文字盤部分には、【S‐145】という数字が刻まれていた。


 その姿に刹那は、在りし日の自身を重ねる。


(この子も、同じなんだ)


 そんな思いをよぎらせた時、少年が不意に足元の蝶の残骸から視線を外す。


《でも――》


 ゆっくりと振り返り、その視線は刹那を捉える。


《お兄さんも、同じなんだね》


「――っ!」


 少年の双眸は、刹那の瞳の奥に隠された過去を見事に見抜き、言い当てた。


 それは暗に、『自分殺し』という名の咎(とが)を背負っていることを示しており、刹那は自身の両手に視線を落とす。


 幾多の者を手にかけ、すっかり汚れきってしまった自身の両手。


 2年前、破壊へと突き進む自分と真っ向から向き合い救ってくれたのは、他ならぬ、片割れであり兄の瞬矢であった。


 あの頃の自分がそうだったように――、


(きっとこの子にだってそういった存在が必要なはず……)
 

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