テキストサイズ

【S】―エス―01

第18章 影の命

 くるりと向き直り窓に凭れ、柔らかな日差しを背に受け「だって……」と続けて一言。


「僕らは特別なんだよ」


 にっこりと子供らしい笑顔を貼り付けて。その表情は、自分と同じ顔でありながら含みがあるように思えた。


     **


 突如フラッシュバックした記憶にあてられ、ぐらり世界が回る。


「……かはっ」


 出てきたのは、乾いた咳のような嘔吐。前屈姿勢のまま顔を上げると東雲 暁は眼鏡の奥の黒い瞳を細め、そして――。


「蝶は見えたかい?」


 いかにも物知り顔でそう言った。


「……っ、蝶?」


 顔を歪めて呼吸を整え、這うような視線を送る。よぎったのは先刻の記憶。


「昔よく話してたろう?」


 彼はそう言い、思い出すように笑う。そして淡々と語るのだった。


 ――彼曰く。本来、クローニングされた個体の寿命は基本的に短く、疾患も少なくはない。


「正確には、特別なクローンのクローン……かな」


 複製(クローン)の複製をとるのだから、通常なら遺伝子情報は劣化してしまう。だが――。


「突然変異?」


 落ち着きを取り戻した瞬矢は、眼前の人物から発せられた言葉に眉根を寄せ訝る。
 

ストーリーメニュー

TOPTOPへ