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小春食堂【ARS】

第7章 自分の両手でできることだけを【翔】

「身欠きにしんだけやない。おでんの大根なんかも、下茹でが必要やな。」

「おばんざいって、手間暇かかるんですね。」


小春さんは、うんと小さくうなづいた。


「おばんざいは、京都では日常的に作って食べるもんや。
難しいもんではない。
ただ、丁寧に作ると、ちょっと手間がかかる。」

「はぁ…」

「せっかく、わざわざうちの店に来てくれはるお客さんには、丁寧に作ったもんを食べてもらいたいやん。」

「はい…」


俺は厨房を出ると、もといた席に戻った。

「櫻井さんの気持ちは嬉しいけど、ブログに載って、急にお客さんが増えたらとても私が追いつかへん。

私は、私の両手でできることだけをやりたいんや。」


小春さんは、かんにんな、と言ってにっこり笑った。

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