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青い桜は何を願う

第4章 私達にリングはいらない


 耐えられなかった。

 王女として生まれたために、最愛の少年との愛を貫くことも出来ない現実に、耐えられなかった。

『カイル、私は貴方と一緒になりたい。一緒になって、貴方を恋人だと皆に言いたいわ!』

 リーシェは芝生に膝をついて、カイルの肩を抱き締めた。

 肖像画でしか互いを知らない、言葉も交わした覚えのない男と婚姻させられることが悲しくて、やるせない。

 リーシェは、このままカイルと一緒に遠くへ逃げてしまいたかった。

『リーシェ様』

『っ……、ぐす……』

『リーシェ様をお連れして、逃げてしまいたい。ですがその先にあるものは、果たして未来と呼べるものでしょうか』

『──……』

 頷けなかった。

『数年後の来世では、幸せになりましょう?リーシェ様』

 来世など、あるかどうかも分からない。

 しかしリーシェは頷いた。

『きっとよ、…──カイル。姿かたちが変わっても、離れ離れに生まれても、約束よ』

 未来など、いらなかった。

 今生でカイルと一緒にいられれば、身が破滅しても構わなかった。

 リーシェがそれに気付くのは、あまりに遅かったのだ。

 カイルのくれたあの接吻は、最初で最後の愛のしるしだ。

 あの時リーシェは、まさか一年後すら迎えられないとは夢にも思っていなかった。

 リーシェが国同士の友好関係を深めるために、婚約者と呼ぶことになろう王子と顔を合わせるまでに、氷華は天祈に破られた。そして、ミゼレッタ家はその権威を失った。







 …──カイル!

 さくらの片手が、このはのそれと緩く絡み合っていた。

 そうだ。カイルも、このはと同じ言葉をくれた。

 氷華の庭園の桜並木の陰に隠れて、二人、秘密の誓いを交わした。カイルはエンゲージリングの代わりに、リーシェに、キスをくれたのだ。

 このはの理屈は、あの頃のカイルのそれと似通っていた。

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