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青い桜は何を願う

第4章 私達にリングはいらない


 さくらにとって、このはと過ごせるひとときは、かけがえない。
 だが、二人の交流が、人伝に知られてゆくとする。あるいはさくら自身の気持ちが、このは本人の耳に入ったとする。
 さくらは、さすればそれはこのはにしてみれば、心外なのではないかと危惧していた。

 さくらはこのはにとって知り合ったばかりの下級生だ。取り柄は裁縫くらいしかない。このはの気持ちを引き寄せるだけの要素は、まるで持ち合わせていなかった。

 このはを想うと胸が詰まる。

 カイルを渇望しているリーシェの魂が胸裏にあるのに、その一方で、真剣に、このはを追い求めている自分がいる。

 昨日、あんなしどけない姿を見たからか?それとも三十分もの間、二人きりになったからか?

 さくらは、このはのまとう空気を、声を、言葉を感じる度に、いつしか落ち着かなくなる体質になっていた。

「さくさく。恋ってさ、ハートの磁石がとりなしてるのよ」

「どうしたの?まりあ。いきなり」

「つまりあたしは言いたいの。さくさくは悪くもないのに、初めての恋に戸惑ってるって」

「戸惑ってる……」

「そう。人が人を好きになるのは、それぞれのハートの中にある磁石が、お互いに呼び合う所為。本人の意思じゃなくて、運命とか、縁とか、生理的なものなのよ。そう考えれば楽じゃない?」

「余計にしんどそうだわ」

「そうかしら。あたしは透様を好きになった時、そう考えたわ。そうしたら、片思いも楽しくなっちゃった。当たって砕けても悔いはない。あたしっておかしい?」

「いいえ。前向きなまりあは羨ましい」

 さくらは、三年生が作業している一角を見る。

 和気藹々と手を進めている部員達の輪の中に、透の、やはり大きな生地の塊をあれやこれやと加工している姿があった。

「それにしても、今日弦祇先輩の声聞こえないわね」

「そうね。どうなさったのかしら」

「さくさく、メール見てみれば?さっきから銀月先輩とどっかで聞いた誰かの声は聞こえるのにさ、弦祇先輩がいないなんて、何かあったんじゃない?」

「ええ、そうね。えっと、携帯は……と」

 さくらはバッグのファスナーを開けて、携帯電話を操作する。

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