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青い桜は何を願う

第1章 プロローグ


「どうしてそんなによそよそしいの?私のこと、覚えてない?」

「ふぇ、や、耳元で喋んないでっ。第一、前って何のことよ?私達さっき逢ったばかり。もしかして典型的なナンパ?!」

「人聞き悪いなー。転生して記憶が戻って以来、私は貴女だけを探していたのに。いつ、どこにいても、貴女に逢うまで私は生まれた実感がしなかった。生きた心地がしなかった。貴女に逢うまで、私は、貴女の面影を探すしかなかったんだ……」

 ──リーシェ・ミゼレッタという、かけがえのない少女(あなた)だけを探し続けてきた。

 今日までの日々は気も遠くなりそうに長かった。もう離さない。

 莢の口は、もう軟派な科白も出せなくなった。気晴らしに戯れる少女達にはそつなく向けられる朝飯前の甘い笑顔も、今の莢には繕えない。

 このはが愛おしすぎて、壊したくない、逃がしたくないといった思いが大きすぎて、神経質なくらい慎重になってしまうのだ。

 前世の記憶を持って生まれた人間は、きっと超能力者の数より少ない。莢の魂がこのはをリーシェだと断言しても、肝心のこのはが莢を、否、カイルを覚えているとは限らない。もとより、莢の勘とて絶対に正しいとは言いきれない。

 それでも、このはは空っぽな自分を救ってくれる。

 根拠もなく、莢は確信していた。

「──リーシェ様。俺は、…──貴女に一目逢いたかった……」

 莢と同じ、黒曜石にも似たこのはの黒い大きな瞳が、その時、歓びと哀しみとの狭間で揺れた。

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