スキをちょうだい。
第4章 不穏ナくうき
梨恵は、特別棟の多目的室に、航太を連れて行った。
教室は、降り続ける雨のせいで、ジメジメとしたイヤな湿気に包まれている。
「あのね、話があるの」
梨恵の思いつめた声が、気持ちの悪い空気を伝って、航太にも妙な緊張をもたらした。
「これ」
彼女は、制服のポケットから一枚の写真を取り出して、相手に差し出した。
そこに写っていたのは、とある日の教室で、キスをしている航太と環の姿だった。
「これ、本物?」
梨恵がおずおずと尋ねてくる。
一瞬、頭が真っ白になる航太だったが、すぐに思考を取り戻す。
ー黙っていたらおかしいよな…‥。
航太は頭をフル回転させて、ここで紡ぐべき言葉を選ぶ。
梨恵がこの写真を見せてきたということは、環にも見せたということだ。
時間は昼休み中。
そこで何があったかは知らないが、環が神妙にしていたのは、これが理由だったのだろう。
叶うなら、環の反応を訊きたかった。
そして、彼と同じ対応をしたかった。
しかし、梨恵にそれを訊いてしまえば、写真は「本物」だとみなされてしまうだろう。
もちろん、実際は本物だ。
だが、彼女に秘密をバラすわけにはいかなかった。
今までのためにも、これからのためにも。
ー環も同じコトを考えてるはずだ。
そう結論づけた航太は、息を吸って、言葉を吐き出した。
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