エスキス アムール
第60章 全てを捨てたって
「僕に父さんの名前を出すとき今矢吹は笑ってたよね。
僕のことはともかく。
これから不幸になる人のことまで、キミは笑ったんだよ。
そんなことは絶対にしたらいけない。
僕に何かをしたいのなら面と向かってぶつかってこい。
姑息な手段なんて使うな。
僕の大切な人を不幸にするなんて絶対に許さない。」
「……っ」
ショックだった。
光平くんから波留くんを引き離すことばかり考えて。
光平くんが不幸になることばかりを考えて。
他の人たちのことなんて考えもしなかった。
もし僕が同じことをされたら、その相手を殺しているだろう。
母親の顔が一瞬浮かんだ。
誰かの都合で、もし母さんが死んだら……
それこそ許せない。
なにも言えずにうつ向いたまま、拳を握りしめる。
面と向かってぶつかってこいなんて……卑怯だ。
そんなことして、僕が光平くんに……
しばらく沈黙が続くと、口を開いたのは光平くんの方だった。
「矢吹。僕の何が気に入らない?」
その一つの質問に、何故かどきりとする。
よく分からないけど、焦り始めた自分がいた。
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