
エスキス アムール
第48章 ただいまとおかえり
ピンポーン
インターホンを押す。
深夜に近いから、木更津は眠っているかもしれない。
でも今日は、追い返されたとしても、ここに居座ろうと思った。
「……はい」
「…きさらづ…?」
久しぶりに交わす会話。
久しぶりに聴く声。
手首にある時計を握り締めて、なにか言葉を紡ごうとしたけど、名前しか出てこなかった。
「あがっておいで」
黙っていると、その一言が静かな空間に響いた。
それと同時に開く自動扉に胸を躍らせながら飛び込んで、階段を駆け上がる。
走って走って、
あと少しで部屋の前だとなったとき、ゆっくり扉が開いた。
「木更津!!」
「…わ、」
開くと同時に出てきた身体に思い切り飛び込む。
拒否されるかと思ったけど、彼の頚筋に顔を擦り付けていると、彼の腕が背中に回ったので、安心した。
「…思ったより、早かったね」
彼の声が耳元で響く。
ゆっくりと身体を離されて、そのできた隙間に、不満げな顔をすると、彼は笑って俺の左手首を掴んだ。
「今日はちゃんとしてるんだね」
満足げに微笑む。
木更津にはるかちゃんの家まで連れてかれ、意識を取り戻しに来た日、つけていなかったのを彼は知っていたらしい。
『ふーん、なるほどね』
そう言った彼の言葉の意味が今ならわかる。
木更津は俺が自分で時計を外したのだと勘違いしたのだ。
